【第三話】職歴50年のカステラ職人
時は経ち、和菓子職人の道を志すようになった私は、
東京自由ヶ丘の銘店「蜂の家」に就職しました。
様々な経歴の職人さんがいらっしゃったのですが、
私が興味を持ったのは、計量から仕込み、焼成、カットまで
全てを1人でこなしていた「カステラ職人」でした。
普通、軽量やカットなど簡単な作業は
パートさんや新人に任せるのですが、
「カステラ」に関しては他の人は一切感知せず、
全てを1人で行ってました。
「なんてかっこいいんだろう」
自分の仕事に誇りと責任を持っていることは、
その後ろ姿から十分に垣間見ることができました。
私は自分の仕事が終わるとそれとなく彼のそばに行き、
その仕事ぶりを見ているのが日課になってました。
ある日いつものように、職人のそばで見学していると、
突然「カステラのはしっこ」をポンっと手渡されました。
「どうせ飯食ってないんだろ。
ここが一番美味いんだ、食ってみろ」
黒縁メガネの奥の鋭い眼光でそう言うと、
また黙々とカステラを切っています。
「ありがとうございます。」
お礼もそこそこに、いただいたカステラは
史上最高に美味しいカステラでした。
それから私の朝食は「カステラのはしっこ」になりました。
朝が早いので目覚めのインスタントコーヒーと一緒に食べるのです。
毎朝毎朝、「はしっこ」を食べていて、
普通は飽きるのですがこう思うようになります。
「いつか自分もこんなカステラを作ってみんなに喜んでもらいたい… 」
<【第四話】理想と現実の間 〜ついに福井へ〜 へつづく>
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